IN 3 LINES
- わたしがリーダーとして大学の仲の良い友達を誘い、自分を含めた5人のチーム「五人五色」で出場。テーマは「渋い」。
- SNS を見すぎてしまう人のために、抹茶を点てる所作で集中に入るアプリ「抹茶振るネス」を作った。
- 午前は他のチームとも「渋いとは何か」を語り合い、午後からチームで開発。夜は友達の家で作り続け、2時間だけ眠って提出まで走りきった。
01 — THEME
「渋い」という難しいテーマと、どう向き合ったか
SPAJAM は、スマートフォンのアプリを短い時間で作りきるハッカソンです。当日に発表されるテーマに合わせて、アイデアを出し、仕様を決め、実装し、デモつきで発表するところまでを2日間でやります。今回の東京予選の会場は、渋谷の Google のオフィスでした。
発表されたテーマは「渋い」。
正直、最初はかなり難しいと思いました。「便利」や「楽しい」と違って、渋いは人によって指すものがばらばらで、しかも「アプリの機能」に直接つながりにくい言葉だからです。
午前は、チームの外で「渋い」を考えた
1日目の午前は、すぐに自分のチームで集まるのではなく、他のチームの人とも交流しながら「渋いとは何か」を考える時間でした。渋いをどう捉えるか、どんな方向に広げられるか、渋いからどんなアプリが思いつくか。チームの垣根を越えて話し、そのままアイデアソンをしました。
話してみると、同じ「渋い」でも見えているものが本当に違いました。
- 味の渋さ苦い・渋い。でも大人はそれを「おいしい」と感じる。
- 佇まいの渋さ派手じゃないのにかっこいい。落ち着いた所作や、水墨画のような引き算の美しさ。
- 「渋る」気持ちやったほうがいいと分かっているのに、腰が重くて手が出ない。
他のチームの捉え方を聞けたことで、見た目を和風にするだけの「渋さ」では弱いと気づけました。わたしたちが最後にたどり着いたのは、この3つを一度に満たす「抹茶を点てる」という行為です。味は苦く、所作は静かで美しく、そして「渋って」なかなか取りかかれない人が、作業の前に一杯点てることで「渋る」から「渋い」へ切りかえられる。テーマを飾りではなく、使う人の行動を変える理由にしようと決めました。

02 — SCHEDULE
2日間のスケジュール
GitHub に残した記録の時刻と写真の撮影時刻をもとに、2日間を振り返りました。日付のタブで切り替えられます。
- 提出用リポジトリにメンバーを記入運営が用意した GitHub のリポジトリに、5人の名前を書き込む。
- 開発の下準備日付が変わってから、秘密情報を入れないための設定(.gitignore と鍵のひな形)だけ先に用意。テーマが分からないので、作るものはまだ何もない。
- 開会・テーマ「渋い」の発表ここから2日目のお昼の提出まで。
- 他のチームとも交流して「渋い」を考える渋いとは何か、どう捉えるか、どんな方向に広げられるか、渋いでどんなアプリが思いつくか。チームの垣根を越えて話し、アイデアソンをする。
- チームで集まって、アイデア出し午前に広げた考えを持ち寄り、一人ずつ案を出して ○△× で絞る。
- Mobbin で UI を調べ、画面の土台を作る案が決まる前から、どの案でも使える共通部品とホーム・はじめの説明を作っておく。
- 試作①「ほしいも」衝動買いしたい物を軒下に「干して」待つアプリ。動くところまで作ってチームに見せ、いったん保留。
- 試作②「渋分(じゅうぶん)」ししおどし → 抹茶を一服 → 呼吸 → 集中、をひと通り動かす。抹茶の案がここで動き出す。
- Unity で茶碗と茶筅の 3D モデルを作る点前の流れを「往復 →「の」の字 → 回す」に作り直す。
- TestFlight で実機に入れて、触り始めるここからは、実機で触っては直す、のくり返し。
- ペルソナに合わせて、ホームを簡単に今日の集中時間・今週・ボタン1つだけに減らす。
- 案内役「りきゅうさん」(Rive)を追加
- ホワイトボードで、流れを決め直す「抹茶 × マインドフルネス」。往復 →「の」の字 → iPhone を回す。泡の大きさは裏で点数にして変える。
- 会場は解散ここからは会場の外で。
- 友達の家に泊まって、開発を続ける23時すぎ、チームで書き直した仕様書「抹茶振るネス」に合わせて、作ったものを一度残してから大きく作り直すと決める。季節の茶室・掛け軸・ランクなど、多くの機能を思い切って外す。
- 友達の家で、夜通し作り込む採点の式と集中タイマー、茶碗を 90° ずつ2回まわす動き、ししおどしのタイマー、泡の描画を GPU(Metal)へ移して茶筅が指に遅れないようにする、茶筅の手触り、端末内 AI の講評。
- 2時間だけ眠る2日間で眠れたのはこれだけ。他のチームにも、徹夜で作っているところがあった。
- 名前を「抹茶振るネス」に決め、仕上げに集中新しい機能は止めて、タイマーの地面に枯山水、ししおどしの音を動きにぴったり合わせる。
- 提出用の README を書く概要・担当・使った技術・工夫と苦労・画面写真。
- 提出締切
- プレゼンとデモ「お点前頂戴いたします」。実機で抹茶を点てて見せる。
- 受付とドロイド君の前で記念撮影終わってから、やっと全員で写真を撮れた。
※ 時刻は GitHub の記録と写真の撮影時刻をもとにしています。記録のない時間帯は、おおよそで書いています。
03 — IDEATHON
アイデアが決まるまで
午後にチームで集まってからは、午前に他のチームと話して広がった「渋い」を持ち寄り、一人ずつ案をホワイトボードに書いて、全員で ○・△・× をつけていきました。実際に出た案はこんな感じです。
- ×盆栽 × 子ども盆栽を育てる体験を子どもに
- ×味覚 × 渋い × 子ども苦い・渋い味に挑戦する「おとなの舌」
- △ししおどし × メッセンジャー一言だけを、間をおいて送る
- △失敗 × ジャーナル失敗を渋く振り返る
- ×渋い × SNS
- ○抹茶 × マインドフルネス→ これが「抹茶振るネス」になる
- ○衝動買い防止 × 干し芋育成→ 試作「ほしいも」
- ○コミュニケーション × 抹茶

決まるまでに、わたしは2つの案を実際に動くところまで作りました。話し合いだけで決めるより、触れるものがあるほうが、チームの判断が早くなると思ったからです。「ほしいも」は面白さはあったものの、テーマとのつながりが少し遠い。抹茶の案は、茶碗を回す・茶筅を振るという体の動きがそのまま操作になるのが強みでした。
夜にもう一度ホワイトボードで整理して、流れを「奥と手前を往復する →「の」の字を書く → iPhone を回す」に決め、泡の細かさは裏で点数にして変える、という今の形になりました。

名前は2回変わった
最後の「抹茶振るネス」は、マインドフルネスと「抹茶を振る」をかけた名前です。プレゼンでは「マインドフルネス」とルビをふりました。
04 — THE APP
抹茶振るネスとは
ショート動画や SNS を開いて、気づいたら1〜2時間たっている。「意識の高いこと」をしたいのに、つい渋ってしまう。そんな人が、「渋る」のではなく「渋く」集中に入れるようにするアプリです。ねらいは、自分を高めたい・SNS 漬けから抜けたい学生と社会人です。
机に置いた iPhone を茶碗に、指を茶筅に見立てます。何かに取りかかる前に短い「儀式」をすると、そのあとがうまくいきやすく、緊張も下がる、という研究があり、その儀式に抹茶を点てる所作を選びました。
1りきゅうさんが案内
「渋々でいい。一杯たてたら、渋い時間が始まる。」
2まっすぐ往復して点てる
ていねいなほど、泡がきめ細かくなる。
3茶碗を 90° ずつ2回
iPhone ごと回すと、目盛りごとに指へ振動が返る。
4ししおどしで集中
講評のあと、タイマーで勉強や仕事へ。
05 — PRESENTATION
発表したプレゼン
本番で使ったスライドです。左右の矢印、スワイプ、キーボードの ← → でめくれます。それぞれのスライドで何を伝えたかも、下に添えました。
表紙
06 — TEAM
チーム「五人五色」と役割
このチームは、わたしが「一緒に出よう」と声をかけて集まった、大学の仲の良い友達4人と自分の5人です。わたしはリーダーとして参加し、チームをまとめながら、アプリの実装も担当しました。
チーム名の「五人五色」のとおり、5人それぞれが違う色の役割を持っていました。リーダーとして意識したのは、全員の得意をそのまま活かせる分け方にすることです。リサーチとプレゼン、ペルソナ、デザイン、要件定義をそれぞれに任せ、わたしはみんなのアイデアやデザイン、要件を、実際に動くものにしていく係を引き受けました。普段から仲が良い分、遠慮なく「ここは違う」と言い合えたのも、短い時間で形にできた理由だと思います。





実装係として気をつけたのは、意見をもらったら、すぐ実機で触れる形にして返すことです。「炭酸みたい」「規則正しすぎる」といった泡への感想も、ペルソナから出た「ホームはもっと簡単に」という意見も、数十分後には TestFlight の新しいビルドで確かめられるようにしていました。
※ アイコンは SPAJAM の公式キャラクター「SPAにゃん」です。
07 — TECH
技術の話
ていねいさを、数式で点数にする
心がよそへ行くと、リズムがばらつき、なぞる線もコースからそれる、という研究があります。そこで、指の往復のまっすぐさとリズムのそろい方から、「集中の目安」を点数にしました。
泡の描画を GPU へ移して、約 1/10 に
泡は液の流れに乗って全体に広がり、場所によってムラが出て、濃い緑から淡い抹茶色へ変わっていきます。最初は CPU で計算していたので処理が追いつかず、茶筅が指より遅れてついてくる状態でした。Metal のシェーダーに移したことで、1コマあたりの待ち時間が大きく減りました。
本物の所作を、センサーで再現する
茶道では、いただく前に茶碗を回します。この動きを、iPhone のセンサー(Core Motion)で読み取り、90° を2回まわすと次へ進むようにしました。目盛りを1つ越えるたびに Core Haptics で小さな振動を返すので、画面を見なくても回した量が指で分かります。
使った技術
ししおどしの音は Wikimedia Commons の自然の音(CC0・パブリックドメイン・CC BY-SA)を使い、作者名はアプリの設定画面に載せています。
08 — WHAT I LEARNED
やったこと・学んだこと
- リーダーとして、得意を活かす分け方にする声をかけて集めた5人だからこそ、全員が力を出せる形にしたいと思っていました。リサーチ・プレゼン、ペルソナ、デザイン、要件定義、実装と、それぞれの得意に合わせて任せたことで、同じ時間に5つの作業が並んで進みました。リーダーの仕事は全部を自分でやることではなく、みんなが動きやすい形を作ることだと学びました。
- テーマは、チームの外で広げてから絞る午前に他のチームの人と「渋い」を話したことで、自分たちだけでは出てこない捉え方に出会えました。最初から一つの答えを探すより、一度大きく広げてから、使う人の行動につながるものに絞るほうが、テーマに深く答えられると学びました。
- 話し合いより先に、触れるものを作る案が決まりきらないうちに「ほしいも」と「渋分」の2つを動くところまで作り、チームに触ってもらいました。言葉だけだと好みの話になりがちですが、触れるものがあると「これは楽しい」「ここは違う」と判断が早くなります。
- 意見は、すぐ実機で返す泡が「炭酸みたい」「規則正しすぎる」と言われては作り直し、ペルソナから出た「ホームはもっと簡単に」もすぐ反映しました。振動・茶碗を回す動き・音は実機でしか確かめられないので、TestFlight で入れては触って直す、をくり返しました。実装係の仕事は、みんなの言葉を早く「触れる形」にすることだと感じました。
- 作ったものを、削る勇気夜に仕様を書き直したとき、半日かけて作った季節の茶室や掛け軸、ランクなどを外しました。先に今の状態を残しておいたので、迷わず削れました。機能の多さより、一杯を気持ちよく点てられることのほうが大事だと、チームで同じ方向を向けました。
- 締切から逆算して、仕上げの時間を守る2時間しか眠れない中で、最後の数時間は新しい機能を足すのをやめ、ししおどしの音を動きに合わせる、提出物を整える、といった仕上げに使いました。デモで触られるところの完成度が、伝わり方を決めると思ったからです。
- 本物の所作を、技術で支える「ていねいさ」をまっすぐさとリズムの式で点数にし、泡の描画を GPU に移して指に遅れないようにし、茶碗を回す動きをセンサーで読み取りました。技術は目立たせるためではなく、所作が自然に感じられるように裏で支えるものだと学びました。
09 — PHOTOS
写真と、これから





2時間しか眠れない2日間でしたが、他のチームにも徹夜で作っているところがあって、会場全体の熱量に背中を押されました。
テーマ「渋い」を、ただ見た目で表すのではなく、手を動かす所作そのもので感じてもらうところまで持っていけたのは、5人の違う色が集まったからだと思います。これからは、実際に毎日の作業の前に使えるように、泡と音をもう少し磨いていきたいです。
結構なお点前でした。読んでいただき、ありがとうございました。